好奇心を爆発させよう

不味すぎる納豆肉詰めと『スナックとは何か?』を知る22歳、深夜0時

ぼくは異世界に友達がいる。彼とは中学校の3年間をともにし、その後別々の道に進んだ。しかし今でも頻繁に連絡をとりあえる良き仲である。

この記事はそんな彼とぼくが久々に盃を交わした平凡な月曜日の夜を描写したものであり、この記事から得られるものはおおよそ何もない。しかたがって、君がこの記事を読むメリットは一ミリもない。












帰ってくれ。

前編 せまい酒屋と不味すぎる納豆肉詰め

乾杯はぼくたちの地元のせまい酒屋で行われた。ここでぼくと彼の関係性を明らかにしておく。ぼくたちは中学生だった頃、自然的に発生した集合体に属し共に行動し、人様への不利益と迷惑だけを生産し続ける、俗に言う『ヤンキー』に近いものであった。しかし、ここでぼくが”近いもの”という表現を使っていることに注目してほしい。そうヤンキーそれ自体ではなかった。胸をはってヤンキーと名乗れるほど振り切っておらず、ほどほどにリスクヘッジをかけているなんとも痛々しい14歳だったわけだ。

そんな敏感な時期に知り合った僕と彼は中学校を卒業した後、別々の世界へと歩を進めた。ぼくは普通科の県立高校に入り、部活動と社会適合者になるための訓練に励んだ。彼は定時制の学校へいき、様々な仕事経験を積んだ。ぼくは大学に入る頃、彼はもう働き始めていた。ここでは学歴とかそういったパラメータで両者を区別したい訳ではなく、同じ門をでたふたりの人間が全く異なる人生を歩み、そして約5年後にひとつの酒場で盃を交わしている奇跡をただ描写したいだけだ。

せまい酒屋で繰り広げられる会話はくだらない過去の笑い話からはじまり、人生哲学を22歳語ろうという営みにまで達する。ここまで広い範囲の話題を共有できる友人を人生で何人と持てるだろう。彼の純粋な純粋な好奇心は哲学やアートにまで及び、その深い思い遣りは何年も会っていない友人に至る。いかに彼が慈悲深く聡明であるかと言うことが理解できる。

そんな彼が突然もぞもぞとし始める。ぼくの話に耳を傾けながらも、もぞもぞ感を隠しきれていない。どうした、と思い話を聞いてみるとどうもこういうことだ。


好きな女がいる。その女は中学校の同級生で、ぼくの知っている子だ。その子は近くのスナックで働いている。呑みにきなよ、と誘って来やがる。



つまり、結論はこの狭い酒屋を一刻も早く飛び出し好きな女が働くスナックへdiveしたいということだ。素晴らしいじゃないか。愛に勝るものはない。最後に注文した納豆肉詰め(これがめちゃくちゃまずい。)をたいらげ、意気揚々とぼくたちはスナックへと向かった。

後編 『初スナックとは何か?』を知る22歳、深夜0時

結局そのお店は9時オープンだったのでオープンまでの約1時間ほど暇をつぶし入店に成功した。この時点でわたくし田中建蔵は22歳にしえスナックデビューを果たしている。そこは完全なる異世界であった。店の雰囲気もそうだが何かとんでもない違和感の波がぼくを襲って来た。ぼくは耳をすました




下手くそすぎる歌が流れている




誰だ、歌っているのは。それは客と思わしき40代前後の一人の男性だった。彼の表情をみたぼくはさらに驚く。




なんと気持ちよさそうに歌ってやがるんだ。




カウンターで一人、目を細め肘をつき脚を組みゆっくりと歌を自分のものにしてやがる。自分の歌が音程やリズムという概念を完全に破壊し得るほど下手くそであることなどは彼の意識の外だ。そういった世俗的煩悩から彼は解き放たれたのか。ビルの2階の一室で彼は人類のもっとも高次な欲求である自己実現欲求を実現してしまっているのか。スナックとは、一人の男性の人生を輝かせる清き場所である。

スナックというものの圧倒的なポテンシャルに飲まれながら、ぼくたちはいいちこを飲んだ。自己実現を果たした男性客の背中を見送り、ぼくたちはその同級生の子も交えて思い出話にまた花を咲かせた。そこで約2時間ほど滞在し軽いおつまみをつまみ、いいちこを数杯飲んだぼくたちは良き月曜日に終止符を打とうとお会計を呼んだ時、はじめて本当の意味で『スナックとは何か?』を知ることとなる。












『1万5千円ですぅ』